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福岡高等裁判所 昭和42年(う)820号 判決

被告人 木下富雄 外四名

弁護人 免出礦 外四名

検察官 野田英雄

主文

検察官の被告人全員に関する本件各控訴(ただし被告人木下富雄に関しては原判示公正証書原本不実記載、同行使の点のみ)はいずれもこれを棄却する。

原判決中、被告人木下富雄および同木下末廣に関する各有罪部分を破棄する。

被告人木下富雄を懲役八月に、同木下末廣を懲役四月に処する。

原審における未決勾留日数中、被告人木下富雄に対し一五〇日を、被告人木下末廣に対し六〇日を、右各刑に算入する。

ただし被告人木下富雄に対し本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

被告人木下富雄に対する本件公訴事実中、原判示第二の道路法違反、不動産侵奪の点については、同被告人は無罪。

被告人木下富雄に対する本件公訴事実中、原判示第三の入場税法違反の点については、公訴を棄却する。

原審および当審における訴訟費用中、証人木部マツ、同木村幹雄、同野田糧作、同古川和枝、同伊瀬知三郎、同田尻進、同別府昇に支給した分は被告人木下富雄、同木下末廣の連帯負担とする。

理由

検察官野田英男が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の検察官森崎猛名義の、弁護人柏崎正一が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の弁護人免出礦名義及び同柏崎正一、同副聡彦、同野村宏治、同徳永昭三連名の、各控訴趣意書に弁護人柏崎正一が陳述した答弁は記録に編綴の弁護人免出礦提出の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから、これを引用する。

一、検察官の控訴趣意中、第一点公正証書原本不実記載、同行使罪に関する事実誤認に対する判断

よつて、所論に鑑み、原判決の当否を判断するに、本件記録および原審ならびに当審で取調べた証拠によれば、原判決説示のような事実関係にあつて、右公訴事実に関する限りこれを有罪と認定するに足りないとする原審の判断は、まことに正当と思料される。これを詳述すれば、

そもそも公正証書原本不実記載罪の対象たる記載事項は、株式会社設立に関する商業登記簿においては法令により記載すべきものと定められた登記事項、言い換えると商法一八八条所定の事項に限られると解すべきであり、これを右以外の事項にまで拡張することは本罪の法益すなわち公正証書の原本記載事項に対する公の信用ということに照らし許されないところである。そこでまず、本件会社の右登記事項をもつて虚偽不実といえるかどうか検討するに、

(一)  本件においては、原判決説示のように、各発起人および株式引受人は、被告人岩崎はもとより他の者においても有効な株式会社の設立に必要な一切の事項の決定および手続の進行の全権を被告人富雄、同末廣、同岩崎に委任し、同被告人らがこれに基づき右登記事項を決定して設立手続を進行し、また取締役および監査役として指名された者らにおいて事前にその就任の推定的同意をしていたと窺われることが明らかであるから、本件における右登記事項すなわち、商号、目的、本店、取締役・代表取締役・監査役の氏名、会社が発行する株式の総数、額面株式一株の金額、発行済株式の総数、額面無額面別の数、資本の額、会社が公告をなす方法等そのもの(しかして、払込があつたかどうかは登記事項ではない)は、いずれも個々的には、発起人、応募株式引受人ら創立総会の構成員となるべきものの意に副つたものであつて、実質内容において真実なものと解さざるを得ず、到底虚偽不実なものといえないのである。

(二)  そこで、問題は、所論のように本件会社がみせ金による払込および創立総会の不存在という二つの瑕疵ある設立手続を前提としているために、本来会社自体が不存在であるにもかかわらず、被告人らがこれを有効に成立し存在するものとして前記設立登記事項の申請をし、もつて登記簿に記載事項全体からみて会社が有効に存在する旨記載させた点に、不実の記載をなさしめたものとして同罪の成立を肯定できるといえるかどうかである。まず、みせ金の点についてであるが、いわゆるみせ金とは、株式払込の仮装の一つの態様を指す実際界の用語であつて、一般に観念されているところによれば、株式会社の設立に際して、発起人が株式払込取扱金融機関以外の第三者から借入をなしこれをもつて株式の払込に充て、会社成立後可及的短期間内に株式払込金を払込取扱銀行から引き出してこれを借入先に返済するという方法で株式の払込を仮装することを指す言葉と考えられている。そしてかかる株式の払込の効力については問題があるが、本件ではまずみせ金の事実の存否から検討しよう。ところで、本件全証拠によるも、被告人富雄と他の発起人間に見せ金にする旨の合意の存在も、また同被告人から出捐された金一〇〇万円(かりに同被告人から金八〇万円および被告人末廣から出捐された金二〇万円であつたとしても)が同人らに返済されたことも認めることはできず、現実に会社の営業活動資金として運用されていることが窺われるので、本件払込がみせ金によるものであると認めることはできない。なお総株式引受額に相当する現金が有効に払込まれている以上、これらの株式の申込および引受の手続に一部瑕疵があつたとしても、これは会社設立の無効原因ともなるものでなく、その他本件会社の払込に関しその設立の効力に影響を及ぼすべき事実の存在を認めることができない。ついで、創立総会不存在の点であるが、前叙のようにこの総会で決議されたとして登記されている事項は全て実質内容において真実なものであり、払込も有効である以上、株式会社設立上の一手続としての創立総会が形式的に存在しないとしても、その他の本件会社設立手続により、外形上法人格の取得に見合う本件会社の団体的実体の成立していることは否定しがたいのであつて、右瑕疵の存在によつて直ちにこのような実体を法律的な価値判断において全然無視して本件会社は不成立で存在しないということは本件株式会社設立手続全体の法律的評価の観点からして妥当でない。

しかして、本件会社は成立して存在するのであるから、これを前提とする本件登記事項には、前記意味においても虚偽性はない。

前叙のように、本件登記事項につき虚偽不実性が認められない以上、右事項の決定につき所論の如き形式的手続的な瑕疵があり、またこの瑕疵を被告人らが知つていたことの故をもつて、右のような実質内容の真実なることを無視し、直ちに公正証書原本不実記載、同行使罪としての責を負わすことは、同罪の立法趣旨、法益および本件会社の如き規模の個人会社ないしはこれに準ずる同族会社の設立手続の常態ならびに商法四二八条の法意に照らし、妥当な解釈とはいえず、むしろこれらの罪は成立しないと解する原判決の判断は相当であると認めざるを得ない。

よつて、右公訴事実について原判決が無罪を言渡した全被告人らの本件行為は、その余の所論について判断するまでもなく、公正証書原本不実記載、同行使罪を構成しないことが明らかであるから、被告人らに対する本件公訴事実は、結局犯罪の証明がないものといわなければならない。従つて、弁護人の答弁は理由があり、検察官の右論旨は理由がない。

二、弁護人らの控訴趣意中事実誤認及び理由不備又は訴訟手続の法令違反の点に対する判断

(一)  恐喝罪に関する控訴趣意について。

所論は、まず原判決の理由不備をいうが、本件記録および原審ならびに当審でとりしらべた証拠によるも、これを認めることができない。

そこで、事実誤認の論旨について判断をすすめる。

1  被告人富雄の建設業界における地位、背景および被告人末廣、伊瀬知三郎、木部マツとの関係について。

原判決挙示の各証拠および当審でとりしらべた証拠によればつぎの事実が認められる。

(1)  被告人富雄は、昭和二八年一二月ごろ木下建設株式会社を設立してその社長となり伊瀬知三郎を専務取締役として建設業を営んでいたところ、昭和三〇年四月熊本市議会議員となり以後三期その職にあつたのであるが、同三二年兼業禁止により右社長の地位を伊瀬知に譲つたものの、依然同会社の実権をその大綱において掌握し、同会社の会長と呼称され、また同三六年熊本市建設業協会の結成にあたつては主導的役割を担当し、以後その顧問となり、伊瀬知をして同協会の副会長、会長を本件事件まで歴任させた。

(2)  熊本県には同協会のほかに県建設業協会があり、前者の業者は後者のそれに比べ県営工事の指名が少なかつたので、前者の会員はその点に非常に不満を抱いていた。そこで被告人富雄は、市協会員が県営工事を多数受注できるようになるためには、県知事が交替しなければ駄目だと考え、政治活動や選挙を好む性格もあつて、昭和三八年一月の知事選には現職の知事の対立候補として選挙直前までは熊本市長であつた某を強く推挙して幅広い選挙運動を展開し、その他の選挙においても市協会の地位向上の趣旨で特定候補を応援し、また同市助役とも特に親しくするなどし、もつて、事業の発展を政治勢力との結びつきによつて果そうと企画していた同協会員間において、自然と指導者かつ実力者としての地位を維持強化するに至つた。

(3)  木部マツは、夫死亡後そのあとをおそつて、同協会に加入している合資会社木部建設の代表者となつたものであるが、事業の遂行にあたつては同協会々長伊瀬知の助力を受けるとともに、前記選挙のときには被告人富雄の事務所に自由に出入りし、同人とともに選挙運動をなして自己の事業の発展を期していた。

(4)  同協会員の間では、工事入札にあたつては、あらかじめ入札日直前に、指名された業者らが集つて当該工事の落札予定者を定めるための協調会を開くことが原則となつていたところ、昭和三七年一二月二五日施行の清水小学校新築工事の入札に際しては、その直前まで落札を希望する木部建設と有限会社木村建設間に折合がつかず最後に両者間で、木部建設が落札するがその工事の施行は木村建設から金五〇万円をもらい更に金一〇〇万円借りることを条件に全部木村建設に下請させてなすということでようやく話合ができ、この約に基づき木部建設が落札したのであるが、これを知つた伊瀬知は双方から政治献金名下に金二〇万円づつを取得することを企て両者に右献金をしないときには右下請契約の履行を妨害するかのような言動をなして両者から現金二〇万円づつの交付をうけた。木部からの右二〇万円は被告人富雄の指図によつてなされたものであり、木村の分は伊瀬知自身が同建設を指名業者になるよう努力してやつたことを動機としてなされたものである。

(5)  木部マツは右二〇万円を前記某の知事立候補供託金名下に要求され、その趣旨で渡しているのであるが、これは当選したあかつき市協会員が県営工事を多数受注できる状態が到来しても、この選挙運動を強力に展開している被告人富雄およびこれの指示のもとに動く伊瀬知の感情を害しておつては、木部建設が工事の指名、入札、施行等につき同人らの協力を得られないばかりか防害さえ受けるかも知れぬと心配したからであつた。

(6)  前記(4) のように入札前に指名業者において協調会をもつのが原則であつたところ、その協調会においては自然同協会の実力者被告人富雄を背景とする伊瀬知や被告人末廣の言動の影響力が大きく、従つて木部マツは落札したいときには同人らにその協力を頼んでいた。

(7)  しかして木部建設が昭和三八年七月三一日落札した熊本市発注の同市立城北小学校建設第二期工事(工事予定額九四三万円)についても、木部マツは入札前、被告人末廣、伊瀬知に協力を依頼していたのであるが、協調会における同被告人の努力にもかかわらず、最後に残つた落札希望者木村建設が仲々譲らなかつたので、遂に同被告人は同建設代表者木村幹雄に威力を加えて落札を断念させるという事態を招来するに至つた。

以上認定の事実を総合すれば、右二期工事落札当時、被告人富雄は熊本市の執行部に影響を及ぼす政治力を有し、また同協会内では隠然たる勢力者として、会長伊瀬知を使つて、事業主体のなす指名業者の選定に影響を及ぼしたり指名業者のなす協調会の動向をある程度左右したり、また落札者が工事の実施にあたり使用する下請業者となす下請契約に容喙する等なしており、そのため同協会員をして被告人富雄およびこれと一体をなす同末廣ならびに伊瀬知の機嫌を損じては、将来指名業者になることや落札したり工事を実施するのに妨害を受けるおそれがあるとの危惧もしくは畏怖の念を抱かしめていたことが明らかであるとともに、同被告人らおよび伊瀬知において、右の状況を認識していたことが充分窺れるのである。

2  被告人両名の恐喝の故意および伊瀬知との共謀について。

所論は、被告人両名は伊瀬知と本件恐喝につき何らの共謀をしておらず、しかして、その故意を欠くものであると主張するが、前叙説示のこの三名の市協会内における地位、勢力およびこれらについての各人の認識の事実に、伊瀬知の原審における証人調書ならびに検察官に対する供述調書および原審証人木部マツの尋問調書の各記載を総合すれば、右故意および共謀の点は充分認められるところである。

3  木部マツの畏怖について、

所論は、同女が伊瀬知に現金等を交付したのは、原判決のように被告人らの地位背景からして第二期工事の施行や将来の市発注の工事の指名ならびに落札につき、如何なる妨害をうけるかわからないと困惑畏怖したからではなく、右工事を落札したら伊瀬知に若干の政治献金をするとの黙約をしておつたことと、伊瀬知や被告人末廣がこの落札に協力してくれたことに対する謝札のためである、というのであるが、原判決挙示の証拠および当審で取調べた証拠によれば、木部としては、当時少額の政治献金をする心づもりはあつたにしても到底判示の金額を支払う意思も能力も理由もなかつたのであつて、これを交付したのは、ひとえにあまりにその要求が強かつたためで、已むなくしぶしぶ交付していると認められるところであり、これと前叙被告人両名ならびに伊瀬知の地位、勢力等に照らせば、木部の原判決挙示の供述調書等の畏怖状態に関する各記載は充分措信できるといわねばならず、これらによれば、木部は前叙認定の被告人ら三名の地位、背景これらの者の間の関係を認識していたからこそ、原判決認定の如く困惑畏怖して現金等を交付するに至つたことが肯認できるのである。なお、木部がこの一部の金員を政治献金として交付する約束をしていたことは窺われるところであるが、それが政治献金名下に不法に金員を取得するための手段としてなされている本件においては、所論の如く、その分につき恐喝罪の成立を否定するよすがとなるものではない。

以上の説示および原判決挙示の証拠によれば、原判示のとおり恐喝罪の成立を認め得るのであるが、ただ木部が畏怖するにあたり認識した被告人ら三名の地位、背景の範囲は、前記認定と原判示とにおいて若干異なるものがあるけれども、この差異は明らかに判決に影響を及ぼすべき事実誤認に該るとはいえない。しかして記録を精査しても原判決には所論の如き事実誤認を認めるべき点はない。論旨は理由がない。

(二)  不動産侵奪罪、道路法違反罪に関する控訴趣意について。

所論は、まず原判決の理由不備および理由のくいちがいをいうが、本件記録および原審ならびに当審で取調べた証拠を精査しても、これらを認めることができない。

そこで、事実誤認の論旨について判断をすすめる。

原審および当審で取調べた証拠によれば、原判決認定の罪となるべき外形的事実および被告人がこれに加功した点が認められるのであるが、本件奪取が所論のように不法領得の意思なくしてなされたいわゆる使用侵奪であるといえるか検討を要する。

右各証拠によれば、本件市道は三本あるが、いずれも耕地整理法によつて作られ、昭和三七年から市道に認定された道路で、桜井本坪線を除く二本は、普段交通がなく、農繁期に一時周辺農家によつて利用される程度の幅六〇ないし九〇糎の畦道よりやや広い目の道路で、それらの存在場所及び外観からみても通常一般的に農道と想われるのが自然な状態の道路であり、しかして、市道改廃手続の実情をある程度知つているものであれば、道路周囲の土地所有者の同意さえあればその廃止につき何ら問題なく、市においてその認可を必ずすると充分推認できる道路であつたこと。桜井本坪線はその幅員、交通状態、外観からみて当然代替道路を設けずに廃止することのできない道路であつたが、地元民の同意を得て相当の代替道路をつくれば、矢張りその変更は市により承認されるに違いないことを市道改廃手続の実状を知る程の者らにおいて充分推認できる道路であつたこと。被告人及び本件学校専務の出田久は熊本市の道路改廃手続およびその処理の実状を知悉していたこと。そこで被告人は学校から本件市道を含む附近の農地一帯を学校敷地として埋立てる工事を木下建設に請負わせたのち、これを埋立てるに当つては、右改廃申請手続を進めるために、予め同市の担当課長に本件埋立工事のことを話すとともに、同課吏員を現地に同道して同市側と本件各道路改廃のための事前協議をなし、これにもとづき学校側に右申請をなすよう要請し、学校はこの申請のために必要な種々の準備を懸命にやつていたこと。桜井本坪線は埋立工事中一時交通に不便を生じたが、終始現在まで地盤は高くなつたけれども閉鎖されることなく、またこの代替道路はこの埋立と同時に学校により附近住民の意向をくんで元のものより幅広く且路肩もしつかりとしたのができておつて住民から感謝されていること。学校敷地の埋立がほぼ終つた昭和四〇年一二月、これらの道路の改廃申請がされ、昭和四一年一二月一〇日の定例市議会でこれらの道路の改廃の議決が問題なく行なわれ、間もなく市長の改廃承認があつたこと。学校側ならびに被告人は右改廃は申請さえすれば必ず右のように承認されるものと確信していたし、市の担当課長においても申請がありさえすればこれを承認する方向で手続を進める積りでいたので、埋立工事がほぼ終る頃まで本件道路が埋立られている事実を知りながらもこれを黙認していたこと等の事実が認められる。

これらの事実によれば、被告人においてこれらの市道を学校敷地の中にとり込み、敷地と同じ高さに埋立てて自動車のコースなどにして使用する意思をもつて、しかもその実行行為である埋立を、前記議会及び市長の承認前であることは勿論、その申請前になしたとしても、このとき既に被告人および出田久らにおいて、前記申請次第、早晩同市の承認のもとに本件市道が学校の敷地として適法に使用できるようになることを確信しており、また学校が右申請のための手続履践に努力していることを知つていたのであり、更に同市執行部では右申請さえあればこれを承認する意向で埋立を黙認していたのであるから、結局被告人らには不法領得の意思がなかつたと判断される。すると、その余の点について判断するまでもなく、本件不動産侵奪罪については犯罪の証明のないことが明らかである。

また、道路法違反の点については、本件道路の損壊にあたつての、被告人の心情、本件道路の廃止及び変更に関する手続の展開、これに対する市の処置、附近住民の便益に及ぼした影響等についての前叙認定の事実に徴すれば、被告人の本件損壊には、当時の道路改廃手続に関する社会通念上相当の理由があつたものと認められ、従つてこれが同法九九条の措定する違法性を帯有し「みだり」になされたものということはできないから、結局同法違反の点もその犯罪の成立を証明するに足りないものというべきである。

よつて、右無罪の点を看過し、被告人に有罪の認定をした原判決には、明らかに判決に影響を及ぼすべき事実誤認がある。論旨は理由がある。

(三)  入場税法違反に関する控訴趣意について。

論旨のうち事実誤認の点の判断に先だち、まず訴訟手続の法令違反の点を按ずるに、所論は本件訴訟条件である告発は、その要件を欠如して無効なものであるから、本件につき実体判決をした原判決には訴訟手続の法令違反があるというにある。

ところで記録によれば、収税官吏の本件告発書は二通あるところ、両者は告発事実に同一性があるから、はじめの昭和四一年七月四日の告発のときを基準として国税犯則取締法一三条一項二、三号の要件が存在したかどうか判断するのを相当とする。右告発書および原審で取調べた証拠に徴すると、右告発をした収税官吏は、当時別件で勾留されていた被告人が何時釈放されるかも知れない事情にあり、そのときには暴力関係者でもあるし、また警察および同収税官吏の調査に対し、全面的に事実を否認しているから逃亡および罪証湮滅のおそれがあると判断して、同条一項二、三号により直ちに告発をしたことが明らかであるところ、告発当日は被告人の道家貴治に対する恐喝事件の起訴前の刑事訴訟法六〇条一項二、三号による勾留期間(二〇日)の満了日で、これが身柄つきのまま起訴された日であり、また、被告人の木部マツに対する恐喝事件および公正証書原本不実記載、同行使事件も求令状で起訴され、両事件につき新たに同法六〇条一項二号により勾留のされた日である。そして以上各事件につき接見禁止決定がなされた日でもある。従つて、当時本件を通告処分に附するとしてもこれに必要とされる期間内に容易に被告人が釈放される見込のなかつたことは明らかで、これは前記起訴前から選任されていた弁護人が被告人の保釈請求を右起訴後約五〇日たつた同年八月二四日までしていないことによつても窺れるところである。そこで当該収税官吏において検察官へ被告人の身柄関係の現状及び見透しを照会した場合には、容易にこれが釈放される見込のないことは簡単に判明できた筈であり、かかる照会を本件において同官吏に要求することは、当時被告人は暴力土建の一環として県警察本部の摘発の対象となり、県民の声援のもとに長期に亘りその捜査をうけていたが右告発前の六月三〇日付の地元新聞には本件の詳細が余罪とともに報道され、告発の翌日には右特別捜査本部が解散された位警察の捜査が進行していたこと、特に同収税官吏は県警本部から一件書類の送付をうけることによりはじめて本件犯則嫌疑を知つたことおよび右照会自体簡単容易な手間でできることに鑑みると、何ら収税官吏にとつて酷な期待というべきではなく、至極当然に要求されるべき行為であつたといえる。

よつて、これら認定事実によれば、同収税官吏が被告人が釈放される可能性があり、そのときには本件につき逃亡、罪証湮滅のおそれがあると考えたことは、右告発当時の被告人の身柄拘束をめぐる具体的事情につき重大な過失に基づく錯誤があつたためといえる。

およそ国税犯則取締法一三条及び一四条の規定に徴するに、収税官吏が入場税等間接国税に関する犯則事件の調査を終つたときは、これを所轄国税局長又は所轄税務署長に報告すること、然る上で国税局長又は税務署長が犯則の心証を得たとき罰金若くは科料に相当する金額等を納付すべき旨通告することが規定されており、ただ一三条一項但書の各号の場合においてのみ収税官吏から直ちに告発することが許されているのである。してみると、右の通告処分をしないまま直ちに収税官吏が告発することができるのは、犯則者に証拠湮滅等前同条一項但書各号に該当する場合に限られ、しかもこの該当性有無の判断は告発の時点における具体的事情に即して客観的に妥当性が是認されるときはじめてその告発は有効であるということができるものと解するを相当とする。

けだし、右規定による通告処分は、犯則者にとつてすみやかに罰金、科料に相当する金額を納付し、刑事処分に多くの日時を費すという無駄をはぶくとともに、前科者とされないという利益をもたらすものであつて、犯則者は通告処分をうけ、通告の旨を履行する機会を与えられるか否かにつき重大な利害関係を有するものと謂うべきであり、従つて犯則者は通告処分を受ける権利を有し、収税当局としてはこれをなす義務があるものともいえる。そしてこの機会は単に犯則事実を強く否認しておる者にも同様に与えられるべきことは多言を要しないので、通告処分を経由しないでなす収税官吏の告発は、犯則者の右の利益を奪うものといえるからである。

しかして、本件において被告人の入場税法違反事件に関し、収税官吏が被告人に前同条一項但書二号、三号の場合に該当するものと判断し、直ちに告発したことは記録上明らかであり、しかも右該当性の有無の判断がその妥当性において前段で認定した情況からしてこれを肯定することができず、記録を精査しても右告発が有効であつたと認めるに足りる事情は見当らないので、本件告発は右に説示したとおり法定の要件を欠缺し無効であると認めるに十分であり、かゝる告発によつて提起された本件公訴はその規定に違背するものであつて不適法といわざるを得ない。(ちなみに本件における二回目の告発-同年九月一九日付-も右要件を欠いていたことは当時被告人が釈放されるとすれば保釈が考えられるのみであつたうえに、当時既に前の告発によつて検察庁の本件事件の捜査が完了していたことにより明らかである。)

それゆえ、その余の論旨について判断するまでもなく原判決はこの点で破棄を免れない。論旨は理由がある。

三、結論

(一)  被告人木下富雄関係

前叙説示のとおりであるから、まず刑訴法三九六条により同被告人に対する原判決中公正証書原本不実記載、同行使の点についての検察官の控訴を棄却する。他方、原判決中、同被告人に対する道路法違反、不動産侵奪および入場税法違反に関する部分はいずれも破棄を免れないところ、これらの各事件とともに原審において有罪とされた木部マツに対する恐喝事件は併合罪として審判されているから原判決は右恐喝事件の関係においても破棄を免れない。

そこで、検察官の控訴趣意第二点および弁護人らの量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項により原判決中同被告人に関する右の各罪すなわち有罪部分を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従つて更に判決をする。

原判決が確定した同被告人の原判示第一の所為は、刑法六〇条二四九条一項に該当するので所定刑期範囲内で被告人を懲役八月に処し、刑法二一条を適用し原審における未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入し、同法二五条一項により本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し訴訟費用の負担については刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用し、主文のとおり定めることとする。

無罪の理由

本件公訴事実の要旨は、

被告人木下富雄は木下建設株式会社(社長伊瀬知三郎)会長であつて株式会社上熊本自動車専門学校(社長田上竜雄)が熊本市池田町字本坪、同町字桜井の田地約三〇、〇〇〇平方米の買収地を同校建設用地として造成するに際し、昭和四〇年六月八日頃同会社と埋立工事契約等を結んでいたものであるが、同会社専務取締役出田久等と共謀の上、同年一〇月末頃、熊本市長の承認を受けないで市道である同町字桜井一、三七一番地の一から同町字本坪一、一七三番地に通ずる幅員二・五米の桜井本坪線二一六・五五米及びこれに通ずる幅員〇・九米の本坪桜井線三一一・七米、本坪一号線五三・八米の各砂利道(敷地面積合計八四九・九二平方米)を右学校敷地として埋立てて校地の一部として占有使用し、もつて右市道を損壊して右市道敷地を侵奪したものである。というのである。

しかし、前叙説示のとおり、右公訴事実は犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し無罪の言渡をする。

公訴棄却の理由

本件公訴事実の要旨は、

被告人木下富雄は、昭和三六年一〇月一日から同年一一月三〇日までの間熊本城内竹の丸を興業場として、熊本大菊人形博覧会と称する同三七年法律五〇号による改正前の入場税法一条に掲げる「見せ物」を主催したものであるが、入場税を免れようと企て、故らに特別入場券(以下単に前売券と称す)の切り取り線にミシンを入れず、入場の際その半券を切り取らないでそのまま回収して別途保管し未使用残券を仮装する等して、

一、昭和三六年一〇月中に前売券四、五四五枚分の入場料金六、五四五、四〇〇円を領収し、当日売入場券等を合算すれば課税標準額六、八九二、八〇〇円、入場税額一、二九四、〇〇〇円であるのに、同年一一月一一日頃熊本市二の丸一番四号同税務署において同署長に対し同年一〇月中前売券一一、四四八枚分の入場料金一、三七三、七六〇円を領収し、当日売入場券等を合算すれば課税標準額二、五八三、一〇〇円、入場券額四三二、〇六〇円なる旨過少に記載した課税標準額申告書を提出して同年一〇月分入場税八六一、九四〇円を免れ、

二、同年一一月中に前売券五九、三六一枚分の入場料金七、一二三、三二〇円を領収し、当日売入場券等を合算すれば課税標準額六、七八八、六〇〇円、入場税額一、二九〇、〇七〇円であるのに、同年一二月九日頃同税務署において同署長に対し同年一一月中前売券二三、四七五枚分の入場料金二、八一七、〇〇〇円を領収し、当日売入場券等を合算すれば課税標準額三、二〇〇、〇〇〇円、入場税額五七二、三五〇円である旨過少に記載した課税標準額申告書を提出して同年一一月分入場税七一七、七二〇円を免れ

もつていずれも不正の行為により入場税を逋脱したものである。というのであるが、前叙説示のとおり本件公訴提起はその規定に違反したため無効であるといわなければならないから、刑事訴訟法三三八条四号により本件公訴を棄却する。

(二) 被告人木下末廣関係

同被告人に対する検察官および弁護人の各控訴趣意中、事実誤認に関する各論旨はいずれも前叙説示のとおり理由がないので、さらに両者の量刑不当の論旨につき判断をすすめるに、本件記録および原審ならびに当審において取調べた証拠に現れた各所論並びにその他の情状に照らすと、原判決の同被告人に対する科刑は重きにすぎ量刑が不当であると認められるので、原判決は刑事訴訟法三九七条により破棄を免れない。弁護人の論旨は理由があり、検察官の論旨は理由がない。

そこで、検察官の同被告人に対する控訴を棄却し、更に刑事訴訟法四〇〇条但書に従い自ら判決することとする。

原判決が確定した同被告人の原判示第一の所為は、刑法六〇条二四九条一項に該当するところ、原判示確定裁判を経た罪があり、これと判示罪とは同法四五条後段の併合罪の関係にあるから同法五〇条により未だ裁判を経ない原判示第一の罪につき処断することとし、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役四月に処し、同法二一条を適用し原審における未決勾留日数中六〇日を右刑に算入し、訴訟費用の負担については刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用し、主文のとおり定めることとする。

(三) 被告人岩崎薩夫、同永田清次、同木下辰則関係

前叙説示のとおりであるから、刑事訴訟法三九六条により右被告人三名に対する検察官の各控訴を棄却することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡林次郎 裁判官 山本茂 裁判官 池田良兼)

検察官森崎猛の控訴趣意

一点 原判決が無罪の言い渡しをした公訴事実のうち、被告人五名に対する公正証書原本不実記載、同行使の点には、事実の誤認があり、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

被告人五名に対する公正証書原本不実記載、同行使の公訴事実の要旨は、

被告人木下富雄、同木下末廣、同岩崎薩夫、同永田清次、同木下辰則は共謀のうえ、いわゆる見せ金操作により会社設立の登記手続をしようと企て、昭和三七年三月一〇日ごろ被告人末廣ほか六名を発起名義人とし、商号は株式会社今井建設、土木建築工事の設計施行の請負、建築材料の製作および販売等を事業の目的とし、発行株式総数八、〇〇〇株、設立の際発行する株式二、〇〇〇株、一株の金額五〇〇円、すべて額面株式とする旨の定款を作成して、同月一三日公証人中野謙五の認証を受け、後藤辰彦を株式申込名義人として同人および右発起人らにおいて右全株式を引受けた旨の株式引受証七通等を作成し、なお同月一四日ごろ被告人富雄において金策した金一、〇〇〇、〇〇〇円を右株式引受人らが引受株数に応じて払い込んだように装い、株式会社肥後相互銀行に預け入れ、同行より株式払込金保管証明書の交付を受けたうえ、全く株金の払込がなく、創立総会を開催していないのにかかわらず、適式の手続を踏み同日創立総会を経て取締役および監査役を選任したごとく偽り、同月一九日熊本市大江町熊本地方法務局において係官に対し、福原輝子を介し、右虚構の事実を記載した定款、株式引受証、創立総会議事録等を同会社設立登記申請書とともに提出し、同日登記官吏をして登記簿の原本にその旨不実の記載をさせ、即時これを同所に備付けさせて行使したものである。

というのであるが、原判決は、まず本件会社の資本金百万円は払込を仮装したものではないから、いわゆる見せ金による会社設立ということはできないと断じ、つづいて、

被告人木下富雄は、同末廣、同岩崎と相謀り、同末廣が主宰する株式会社今井建設の設立を企て、梅元昭東税理事務所の税理士梶原康生を呼び、同人に対しその構想を説明し、会社名、目的、資本金額、発起人、株式引受人、取締役、監査役等必要な諸事項を告知し、会社設立に要する一切の手続を包括的に委嘱し、また被告人岩崎、同末廣において被告人木下の親族または木下建設の従業員の中から被告人辰則、同永田ら六名を選び、発起人、株式引受人または株式申込人になつて貰うべく、その告知内容については個人差があるが、要するに会社設立手続のため名義を貸して貰いたい旨頼み、株式引受額等に応じた金員の出捐をする必要のないことの、明示または暗黙の了解のもとに、その概括的承諾を受けて印鑑および印鑑証明書を預り、これを梶原に預託した。そこで同人は、指示された骨子を基礎に、女子事務員をして同事務所備付のひな型によつてしかるべく定款、株式引受証、創立総会議事録等必要書類を作成させ、各名義人欄に指定の氏名を記入してその名下に保管の前記印鑑を押捺し、結局株式会社の設立登記を完了した。

との事実を認定したうえ、しかしながら、

右発起人兼株式引受人および申込人は、有効な会社設立手続をとるため、包括的に手続を委任したものであるから、自己資金の出捐をする意思の存否はとにかく、一概に引受、申込の意思がなかつたとはいえず、また現金の移動による現実の払込がある以上、株金の払込がなかつたということはできず、この点に関する登記事項に虚偽不実はない。

本件会社設立に際し適法な手続による創立総会が開催されたことも、したがつて創立総会によつて役員が選任された事実もないのに、あたかも右手続がなされたような議事録が作成されており、したがつて会社は不存在とみて登記事項のすべてにわたり、または登記事項の一部について、虚偽不実があり、一応形式的には公正証書原本不実記載罪等が成立することは、外観上明らかなごとくであるが、本件会社はごく小規模なもので、いわゆる同族会社に類し、関係者は八名にとどまり、元来意思の疎通を計りやすい間柄にある筈であるが、これらは法律的に有効な会社設立を包括的に一任しているとみられ、したがつて、創立総会議事録に記載された同総会の議決内容は、その構成員の意思にそうもので、また同総会で選任された役員たちも実質的には就任を承認していると認め得るので、登記事項はいずれもその実質的内容において真実に合致し、仮りにそうでないとしても被告人らは会社設立手続に関する法律知識が十分でなく、仮りに被告人らが会社設立には適式な創立総会の開催が必要不可欠であることを認識していたとしても、被告人らは本件会社の設立を仮装する意思はなく、有効に会社が設立されることを望み、それ故にこそ会社設立の専門家である税理士にその手続一切を委任し、税理士の処理をすべて適法と信じていたものであつて、登記事項が虚偽不実であることの認識を欠き、かつ虚偽不実でないと信ずるについて、それ相当の理由があるものと認められるから故意を阻却する。

旨説示して無罪を言い渡した。

しかしながら、各発起人兼株式引受人及び申込人は本件会社の設立手続を包括的に委任したものではなく、株式会社今井建設の資本金百万円は「見せ金」と評価さるべきものであり、仮りに見せ金でないとしても会社の成立のための法定条件である創立総会を欠くため会社は不成立即ち不存在であり、被告人等はその事実を認識していたのであるから、犯意は明白であり、原審の認定は事実を誤認したものであると思料するので、以下その理由を述べることとする。

一、各発起人兼株式引受人及び申込人は、有効な会社設立手続をとるため、包括的に手続を委任したものではない。

1 原判決は、「被告人岩崎、同末廣において被告人木下の親族または木下建設の従業員の中から被告人辰則、同永田ら六名を選び、発起人、株式引受人または株式申込人になつて貰うべく、その告知内容については個人差があるが、要するに会社設立手続のため名義を貸して貰いたい旨頼み、株式引受額等に応じた金員の出捐をする必要のないことの、明示または暗黙の了解のもとに、その概括的承諾を受けて印鑑および印鑑証明書を預り」とか、「右発起人兼株式引受人および申込人は、有効な会社設立手続をとるため、包括的に手続を委任したものであるから……」、「木下辰則らは法律的に有効な会社設立を希望し、具体的事項はすべて被告人末廣ら幹部に包括的に一任しているとみられ」とかの判示をなし、如何にも各発起人等が有効な会社設立のためその手続全般を包括的に被告人岩崎、同末廣に委任し、その包括的委任により本件設立行為がなされたもののように認定しているが、果してそのような認定が可能であろうか。なお包括的委任なる立言をなす原判決はそもそも会社設立行為のうちの如何なる手続につき委任ありと認めたのか、その委任事務の範囲が必ずしも明白ではないが、原判決が「適法な手続による創立総会が開催されていない」ことを明確に認定しながら、しかしそのあとで

本件会社はごく小規模なもので同族会社に類し、関係者八名は元来意思の疎通を計りやすい間柄にある筈で、同人らは法律的に有効な会社設立を希望してはいるが、具体的な事項はすべて被告人末廣ら幹部に包括的に一任しているとみられ、総会議事録記載の議決内容は、その構成員の意思にそうもので、また同総会で選任された役員たちも実質的には就任を承認していると認められるのであるから、本件登記事項はいずれもその実質的内容において真実に合致し、にわかに虚偽不実と断定し、公正証書原本不実記載罪に問擬し、刑事責任を問いがたいように思われる。

と説示するところから見ると、その全体の論旨は、包括的委任の範囲を会社設立行為中発起から始まり定款作成、株式の引受、申込はもとより創立総会の開催(その期間短縮)及び議決、役員選任等を経て登記申請にいたる迄の広汎な全手続について認定した趣旨であると解する外はないが、かかる広汎な包括的委任をなしたものと証拠上果して認定できるであろうか。次に仮りに認定できたとして商法の規定の性質から考え、果してかかる包括的委任が許容されるであろうか。

2 まず包括的委任ありと解し得るか否かにつき証拠を検討すれば、被告人岩崎、同末廣が今辻政雄、西清、後藤辰彦、清崎重人、被告人永田清次、同木下辰則に対し「会社を作るので名前丈貸してくれ、印鑑と印鑑証明を持つて来てくれ」と言つて同人等の印鑑等を取集めて関係書類全部に押印されたものであり、今辻政雄、清崎重人、被告人永田清次、同木下辰則の四名は印鑑を貸してやつたのみで引受株数も知らず、西清、後藤辰彦が十万円及び五万円の株主であることを了知しているのみに過ぎない(被告人岩崎薩夫の検察官調書、記録四、七八四丁裏、四、七八五丁表、今辻政雄の証人尋問調書、記録四五一丁表、四五四丁裏、四六〇丁表乃至四六七丁、西清の前同、記録四七二丁裏乃至四七四丁裏、四八六丁裏、後藤辰彦の前同、記録一、二七四丁乃至一、二七八丁、清崎重人の前同、記録五〇二丁表乃至五〇六丁表、永田清次の被告人尋問調書、記録一、四八一丁表乃至一、四九〇丁表、同人の検察官調書、記録四、八五二丁、同人の司法警察員調書、記録四、八三四丁表、木下辰則の被告人尋問調書、記録一、五三四丁以下、同人の検察官調書、記録四、九二三丁裏以下)ことが認められる。そして被告人末廣はとも角、爾余の被告人岩崎等は自己の引受けた筈の株式について、その権利を主張する意思もなかつたことは、同人等が今井建設を退社したあとも何等株式の譲渡その他の手続をも執らなかつた事実に徴してもまことに明らかである(岩崎薩夫の被告人尋問調書、記録一、四四八丁裏、後藤辰彦の証人尋問調書、記録一、二七八丁)。尤も発起人等のうち清崎重人等は、弁護人の尋問に対して、「有効な会社設立を希望し、包括的に手続を一任する考えであつた」とか、あるいは「異議はなかつた」旨を述べる(清崎重人の証人尋問調書、記録五一五丁裏乃至五一六丁表)が、右は誘導尋問の結果の供述であり、また、前述のとおり同人等が退社転居の際も何等会社に対し株式に対する権利主張をした事跡がないことからも同人等の法廷における供述は到底措信することができない。

そのような発起人等の供述を綜合して判断すれば、結局取締役、監査役に選任されたとされる被告人末廣、同岩崎、同永田は暫くおくとしても、それ以外の、単に名義を貸したに過ぎない後藤辰彦、清崎重人、被告 人木下辰則、今辻政雄、西清の五名は、出資義務もなく、株式引受の意思もない結果、そのことに関心をもたず第三者として単に設立手続等を傍観したのみであつたというのが、事の真相であると認められ、したがつて到底同人等が法律的に有効な会社の設立を希望し、定款作成から登記申請迄の全手続を包括的に被告人岩崎等に一任したものとは評価し得ないものと考える。

3 また、委任には、それが法律行為の委託を目的とする場合(会社設立時の定款作成、株式の引受、申込及び創立総会の特別議決等が法律行為であることは問題があるまい)は、同時に受任者に対する代理権授与を含むことが多く、この場合当事者間に事務を処理すべき債務関係を成立させることだけを内容とする委任契約と、この事務処理の手段として与えられる代理権授与とは別個の行為としてそれぞれ独立に取扱うべきであるとされるところ、本件においては印鑑、同証明を一度授受した点を除けば最も一般的な代理権授与行為である委任状の交付等の行為はこれをなした形跡が全く見当らない。

4 次に、仮りに名義を貸してくれと依頼され、これを承諾して自己の印鑑を貸与した等の行為を委任契約と代理権授与の双方の性質を併せ持つものと解しても、これをもつて発起から登記申請に至るまでの全手続について包括的委任ありとして是認することは、かかる包括的委任は社会的妥当性がなく公序良俗に反し、商法会社編の強行法規性を全くふみにじるものであることに徴し、到底有効なりとして是認されるものではなく無効となす外はない。

そうだとすれば、定款、株式引受証、同申込証、設立の際発行する株式の同意書、期間短縮同意書等に各発起人等名義の記名押印がなされているからといつて、真実定款作成から登記までの法律行為が適法有効になされたものと評価することはできず、原審が包括的委任ありとして本件設立行為が有効になされたものの如く認定したことは事実誤認であるというべきである。

二、本件資本金百万円は、現金の移動による現実の払込みはあるが、いわゆる見せ金と評価さるべきである。

1 いわゆる見せ金とは、原判決の説示する限り、発起人が払込取扱銀行以外の者から借入金を得て株式の払込みに充て、会社成立後その払込金を引出して借入先に弁済する場合のように、当初から真実株式の払込みをして会社の資本を充実する意思がなく、単に払込みの外観を整えるために、一時的に銀行に金員を預託する場合をいうと解されるが、見せ金による払込みは、全体的な行為の実質から見て、払込みの仮装手段であり、法律上有効な株式払込みとは認められないことは判例の認めるところである。

ところで、本件においては、発起人でもない被告人木下富雄が百万円を金策して、被告人岩崎において新株払込金として銀行に預託し、同人が保管金証明書の交付を受けたものであり、被告人木下富雄、同末廣及び爾余の発起人間に各株式引受証記載の各引受額を立替えて出捐し(貸)これを借受ける(借)等の何等の合意も見られず、全く出資の意思がなかつたと認められ、今辻政雄、清崎重人、被告人永田清次、同木下辰則は自己の引受金額すら了知しないことは前叙のとおりである。

2 原判決が右百万円のうち二十万円を被告人末廣が出捐したと認定したのは、証拠の価値判断を誤つて事実を誤認したものであることは後述するが、仮りに被告人末廣において二十万円出資したとしても、その余の八十万円については、他の発起人兼株式引受人及び申込人としては株式を取得する意思がなく且つ出資義務を負担する意思も毛頭なかつたものであり(前掲証拠)、したがつて、被告人木下富雄の一方的意思により交付された八十万円は、当然また同人の一方的意思により早晩払込金を引き出して取戻される運命にあつたもので、会社成立後その払込金を引き出して借入先(被告人木下富雄)に弁済することの了解が、被告人木下富雄、同岩崎間にあつたものと評価されるので、実質的に資本が充実したものではなく、資本充実の原則に反する払込仮装であつて、結局いわゆる「見せ金」というべきである。

3 資本金百万円の出資につき、原判決は二十万円を被告人末廣が出捐し八十万円を同富雄が出捐した旨判示したが、これは証拠の価値判断を誤り、被告人末廣の虚偽の供述とこれに口裏を合せた同富雄の供述を措信し、被告人岩崎の供述の一貫性、合理性を看過した誤つた採証というべきである。

すなわち、被告人末廣は、捜査段階において、「引受人のうちで私二十万、木下辰則十万、岩崎薩夫二十万、永田清次十五万とそれぞれ引受額を出資し、その余の三十五万は私のヘそくりから立替えた」とまことしやかに発起人等が各自出資したかのように装つて述べ(被告人木下末廣の司法警察員調書、記録四、八七四丁、四、八七五丁)、「各発起人から取纒めた金と私が出資した二十万円の合計百万円は岩崎に渡し、手続を梅元税理士事務所に依頼させた」旨供述し(被告人木下末廣の検察官調書、記録四、八八三丁裏)ながら、被告人尋問の段階になり、「自分が二十万円金策し、残りの八十万円は兄に頼んで出して貰つた、八十万円は実際に富雄から自分が貰つたのではなく、岩崎が貰つただろうと思います」と述べ(木下末廣の被告人尋問調書、記録一、五〇七丁裏)、八十万円の授受についてその供述が変転したが、他方、被告人木下富雄は、被告人尋問の段階において、検察官の問に対し、

確か末廣から十五万か二十万預つておいて、渡す時には百万にして末廣に渡しました。

と答え(木下富雄の被告人尋問調書、記録五、五〇五丁裏、五、五二七丁表)、裁判長に対しても、

末廣に渡したのは現金です、十五万預つておつたのと合計して百万渡しました、私の部屋で渡しました。

と述べ(木下富雄の被告人尋問調書、記録五、五三二丁裏)、授受された金額は勿論、その相手方も被告人末廣の供述と齟齬している。これを、捜査の当初から一貫して被告人岩崎が、現金百万円を木下建設で受取つた旨を述べ、ただ当初伊瀬知社長から受取つたと誤解していたが、その後被告人木下富雄であつたことを想起してその点を訂正し、授受の状況等について保管証明書を示され可成明確に述べ具体的である(岩崎薩夫の被告人尋問調書、記録一、四三六丁表乃至一、四三八丁裏、同人の司法警察員調書、記録四、七四七丁裏乃至四、七四九丁裏)のと対比すれば、被告人富雄、同末廣の供述は措信できず、両名は口裏をあわせて末廣の二十万乃至十五万円の出資を仮装するに過ぎないと思料され、被告人岩崎が梅元税理士事務所より百万円の保管金証明書を貰つてくれとの要求を受けて被告人富雄に連絡し、同人より百万円を受領してこれを別段預金に預入れ証明書の交付を受け乍ら、その一連の事実に関して何等被告人末廣に連絡乃至通知をした事実が認められないことに徴すれば、被告人末廣が二十万円を出資した事実は全く無根であると認めるのが相当である。

4 資本金百万円は銀行預託後約二十日にしてうち九十万円が木下建設に実質的には引出されている。

すなわち、資本金百万円の銀行預託後の始末を精査すると、うち別段預金五十万円は当座預金に、更に定期預金に振替えられ、これを担保に同額を被告人富雄が受領し(伊瀬知三郎の検察官調書、記録六、〇一〇丁裏)、これは帳簿上木下建設へ仮払い形式で貸しつけられ(平野マサ子の証人尋問調書、記録五二五丁乃至五三〇丁)、三月二十九日設立費用として四万九千百二十五円を支出し、三月三十一日四十万円を木下建設へ支払つている(平野マサ子の証人尋問調書、記録五二五丁乃至五三〇丁、四、〇五九丁裏乃至四、〇六一丁裏)のであるが、前の定期預金五十万円は借入金五十万円の担保となつているのであるから、実質的には定期預金五十万円を払出したのと同一であつて、結局三月十九日の登記後一週間乃至二十一日には九十万円が木下建設のために引出されているわけである。

この点について、右九十万円は島崎町所在の土地、建物の代金内金に充てられた(前掲証拠)というが、登記簿謄本(記録六、二五二丁、六、二五九丁、六、二六九丁)によれば、右物件は今井建設の会社財産として移転登記された形跡がなく、却つて同年三月一日木下建設へ移転登記がなされている(前掲証拠)。更に定期五十万円を担保に木下建設が借受けた五十万円は、同月三十一日今井建設名義で前記物件を担保として借受けた二百三十万円のうちから木下建設へ支払われているのであるから、返済したとはいうものの、実体は今井建設の金員を借り直したと観られ、同社の負債のみが増大したものである。

かかる資本金の移動は、今井建設を木下建設の為の金融の手段に供したのみであつて、今井建設自体の資本充実の意思はなかつたものであり、単に払込みの外観を整えるために一時的に銀行に預託したに過ぎないと認めるのが相当である。したがつて本件百万円の預託はいわゆる見せ金と評価せざるを得ない。

三、仮りに資本金百万円が見せ金でないとしても、創立総会の手続を欠くが故に株式会社今井建設は不存在である。

原判決は、本件会社設立に際し、適法な手続による創立総会が開催されたこともないのに、創立総会が開催され、役員が選任されたような議事録が作成された事実を認めながらも、包括的委任ありとして、株式会社今井建設の設立を認めるもののようで、「創立総会議事録に記載された同総会の議決内容は、その構成員の意思にそうもので、また同総会で選任された役員たちも実質的には就任を承認していると認め得るので、登記事項はいずれもその実質的内容において真実に合致し」と判示する。

しかしながら、株式会社の設立において、全く創立総会の開催をなさないで会社を設立することができるであろうか。創立総会は、募集設立の際、株式引受人の全員によつて構成される意思決定機関であり、これにより会社の設立が決定されるものであつて、その故に商法はその招集権者、招集時期、招集通知、決議方法、議事録等に関し厳格な規定を設け、創立総会の決議に瑕疵がある場合は株主総会の決議の無効確認、取消の訴に関する規定が準用(商法第一八〇条第三項)されるのであり、創立総会の招集手続又はその決議方法が法令または定款に反するときは、決議取消の訴により取消され、創立総会の決議の内容が法令または定款に違反するときは、無効確認の訴により対世的効力をもつて無効とされ、また、創立総会の決議の瑕疵が会社の設立を無効とするものであるときは、設立登記はできなくなり、若し一度設立登記がなされると、設立無効の訴をもつて争われることとなる。

ただ、会社成立のためには、創立総会において設立の決議が必要ではなく、創立総会が設立廃止の決議をなさずに終結することが会社成立の一つの法定条件であると解されるけれども、実質的な創立総会が開催されなければ、会社の設立行為は完成するに至らない。そして創立総会に関する商法第一八〇条乃至第一八五条が強行規定であることは、これらの違反に対し厳重な制裁や罰則が設けられていることに徴して明らかである。

これを本件について見るに、原判決も認めるとおり、創立総会が招集され、開催され、設立廃止の決議をなさずに終結したと認めるに足る形跡は全くなく、書面による持廻り決議のなされた証拠もないのであるから、会社が成立したと観るに由ないものであることは多言を要しない。役員選任についても、創立総会議事録には、議長は取締役、監査役の選任方法を諮つたところ、株主今辻政雄より議長に一任した旨の発言あり、一同これを承認したので議長は

取締役 木下末廣、岩崎薩夫、今井健児

監査役 永田清次

を指名し各自就任を承諾した。

旨記載されている(創立総会議事録謄本、記録五六八丁、五六九丁)が、勿論特別議決(商法第一八三条、同第一八〇条第二項)により右の役員が選任されたものではない。また役員の選任行為は、被選任者の承諾によつてその効力を発生すると解されるが、今井健児については当時選任の通知もなされていないし、承諾もなされていない。同人としては営林局に対する実績を新会社のため生かすには自らが社長でなくては好都合ではないと考えていたのであるが、不知の間に自己のものでない印章を使用されて創立総会議事録、取締役会議事録、調査報告書に記名押印がなされ、専務取締役を受任したことにされており、同人はそのことを事後に知らされたという(今井健児の証人尋問調書、記録七三二丁表乃至七三五丁裏、創立総会議事録謄本、記録五六八丁、五六九丁、取締役会議事録謄本、記録五七〇丁、調査報告書謄本、記録五七一丁)。したがつて、適式の創立総会を欠く本件においては、仮りに資本金百万円の預託を有効な出資と観ても、結局株式会社の設立行為は完成するに至らなかつた廉により、株式会社今井建設は不成立すなわち不存在であるとなす外はない。このことは一度設立登記がなされると私法上設立無効の訴を以て無効とされるまでは会社が存在するものとして取扱われることとは別個の観点に立つて評価さるべきである。

原判決はこの点に関し「適法な手続による創立総会が開催されたことも、したがつて創立総会によつて役員が選任されたこともないのに、あたかも右手続がなされたような議事録が作成され……(中略)、したがつてかかる瑕疵の故に、会社は不存在とみて登記事項のすべてにわたつて、虚偽不実であり、また仮りにそうでないとしても、登記事項中『取締役及び監査役の氏名』(商法第一八八条第二項第七号)など個々の事項について虚偽不実であり……」と説示し、適法な創立総会が開催されなくても、単に取締役等の選任行為のみが否定され、株式会社は設立される場合があるかの如く論ずるけれども、創立総会の開催がなければ設立に至らず、会社は不成立に終る外はなく、創立総会の開催なくして株式会社の成立する場合は有り得ないと解する。

したがつて、適法な創立総会の開催が認められない本件においては、株式会社今井建設は不成立であり、これを設立されたとして登記に及んだ所為は登記事項のすべてにわたつて虚偽不実が登記官吏に申告されたものというべきである。

四、被告人等は虚偽不実を認識していたものであり、故意は明白というべきである。

原判決は、仮りに株式会社の設立には適式な創立総会の開催が必要不可欠であることを認識していたとしても、被告人等は本件会社の設立を仮装する意思はなく、有効に会社が設立されることを望んでおり(現に設立後営業活動をしている)、それ故にこそ会社設立手続の専門家である税理士にその手続一切を委任したものであり、税理士の処理をすべて適法と信じ、本件のごとき会社の場合適法な創立総会の開催がなくても設立は有効であると考え、よもや会社設立が無効であるとか、会社不存在に帰するとかは考え及ばなかつたと認めるのが相当であり、被告人富雄は、現に役員をする他の会社設立に際し、本件と同様の手続で処理し、その適法性について疑を持たなかつたことがうかがわれるとして虚偽不実であることの認識を欠き、虚偽不実でないと信ずるについて、それ相当の理由があると認定したが、これは誤りである。証拠を検討すれば、被告人等は会社の設立には適式な創立総会の開催が必要であり、これを開催しないで(したがつて創立総会の議決によらずして)被告人富雄の一方的指名により各自役員とされた事実は十分認識しており、しかも創立総会が開催されたもののように登記されることも認識していたものと認められる。

すなわち、被告人富雄について言えば、同人は税理士梅元昭東に本件の会社設立の手続書類作成について電話を以て依頼し、同人が事務員梶原康生をして被被告人と面談させ、梶原は被告人に会社設立手続をこうこうだと説明した上で、発起人の氏名等をきいてひな型に従い定款、引受書類、創立総会議事録等を一度にまとめて作つてしまうやり方で処理した事実が明らかである(梶原康生の司法警察員調書、記録五七六丁以下、梅元昭東の前同、記録五九一丁以下、梶原康生の証人尋問調書、記録三、九八七丁乃至四、〇一七丁、四、二七三丁表)から、これに被告人富雄がこれまで丸八陶器株式会社等五つ位の会社設立に関係して取締役となつており、本件当時会社設立につき創立総会が必要なことについての認識があつた(木下富雄の被告人尋問調書、記録五、五二七丁裏、一、五二八丁表)事実を併せ考慮すれば、被告人富雄は本件において虚偽不実の認識があつたものと認めるのが相当である。

被告人木下末廣は、「岩崎さんが法務局に出す許りに出来上つた申請書綴を私に持つて来たので私は目を通したと思うが場所は覚えていない」と述べ(被告人木下末廣の司法警察員調書、記録四、八七七丁裏乃至四、八七八丁表)ているのであるから、当時創立総会が開催されてもいないのに開催された上代表取締役として選任されたかのように虚偽の事項を記載して登記申請がなされることを認識していたと認めるに十分である。

被告人岩崎は、検察官に対し、

会長からお前は二十万の出資で取締役といわれたので、形式的にそのように出資したように会社を作りあげるのだと思つていた…………。

株式会社を設立する際は発起人が集つて定款を作つたり、創立総会等を開いてその議事録も作つたりしてから登記しなければならないことは知つていた。

と述べ(被告人岩崎薩夫の検察官調書、記録四、七八四丁)ており、したがつて同被告人は創立総会も開催することなく、その議決もなくして被告人富雄の一方的指名で取締役として会社の設立登記がなされることは認識していたことが明白である。

被告人永田は、今度会社を作るのに名前を貸してくれないか、監査役になつて貰う等といわれて印鑑を作らせた、会社を設立するためには登記しなければならないことは当時も現在も知つている旨供述し(被告人永田清次の司法警察員調書、記録四、八三四丁)ているのであるから、本件会社の創立総会等の設立行為が何らなされないで設立登記がなされることは認識していたこととなり、虚偽不実の認識があつたものと認められる。

被告人木下辰則は、検察官から創立総会議事録等の設立登記申請書類写を示されて取調べを受けた際、

その期間短縮同意書等に角印を押してやつた時も、どんな意味の同意書なのかよくは確かめなかつたように思います。しかし会社を設立する時には登記をすることは知つておりましたので、私が捺印した期間短縮同意書等の書類で登記されるだろうということは判つておりました。

と述べ(被告人木下辰則の検察官調書、記録四、九二五丁、四、九二六丁)ているところからすれば、同人も創立総会が開催された事実もないのに開催され且つ議決もなされたように議事録等が作成されて登記申請のなされることは了知して押印したものと認められるので同人もまた虚偽不実の認識があつたと看做すべきである。被告人等は、以上のとおり、何れも創立総会の欠缺を了知しながらこれが適式に開催され、役員の選任がなされたように書類の体裁がととのえられて登記手続がなされることを認識して登記申請に加功したものであるから、本罪における故意を有していたと認めるに十分である。右の故意が認められる以上、被告人等が「適法性について疑をもたなかつた」と結論することは早計であり、被告人等が違法性について認識しなかつたとしても犯意は十分であるということができる。

五、被告人等の故意を阻却する事由はない。

次に、原判決は、「仮りに被告人らにおいて株式会社の設立には適式な創立総会の開催が必要不可欠であることを認識していたとしても」との前提のもとに、被告人等は本件会社の設立を仮装する意思はなく、有効に会社が設立されることを望んでおり(現に設立後営業活動をしている)、設立手続を税理士に委任したことの故をもつて、被告人等は「登記事項は実際に虚偽不実なのにかかわらずその認識を欠き、かつ虚偽不実でないと信ずるについて、それ相当の理由がある」と認めて故意を阻却するとしたが、元来公正証書原本不実記載罪において「会社の設立を仮装する意思」は構成要件として必要ではないことは論をまたない。

すなわち、設立行為の瑕疵が会社の設立を私法上無効ならしめない程度に軽微な場合において適式に役員の選任がなされなかつた等登記事項の一部に不実があれば(その場合その一部を適式と仮装するのみで設立を仮装する意思のないことは勿論である)、本罪の成立を見ることは大審院以来の判例の一貫するところである。本罪の成立に必要なのは設立を仮装する意思ではなく、創立総会が開催されなかつたのに開催されたように申告すること等の虚偽不実の認識であり、まして原判決のいうような会社が有効に設立されることを希望し或はその後営業活動に及んでいること等は犯罪の成立に消長を来たすものではない。蓋し、如何に有効に会社が設立されることを希望しても、設立に必要な適式の設立行為が全く存しなければ、会社が設立されるに由ないこととなり、また営業活動は株式会社以外の会社、組合たるとはたまた個人たるとを問わず推進し得ることは明白であるからである。

そして原判決は税理士への委任を大きく取上げこれをもつて犯意阻却の事由として認定したのであるが、税理士は税理士法所定の税務事務等を処理するものに過ぎず、法律事務を専門とするものではなく、原判決の認めるように会社設立の専門家であるとは到底考えられないところであり、当該税理士事務所員はかかる定款作成等の法律行為が税理士の適法職務ではなく、弁護士法違反であることを認識しながら加功した疑が濃厚である(前記梶原の証人尋問調書、記録四、二八二丁)から、社会的に相当であると認められる弁護士等に依頼したのでもあれば格別、単に税理士に委任した一事をもつて故意を阻却するとする原判決の所論は到底これを肯認することができない。この点に関し附言すると最高裁判例(昭和二六年七月一〇日、刑集五巻八号一、四一一頁)は宗教団体法及び寺院規則が失効したものと信じ、虚偽であることについての認識がなかつた場合であり、虚偽不実の認識の明白な本件には適切でない。

弁護人柏崎正一外三名の控訴趣意

(不動産侵奪)

本件においていわば本犯的立場にある出田、清田もまた、不法領得の意思を欠いているという理由により、市道敷地侵奪の点につき無罪であると思料する。従つて、同人等の行為に単に附随的に加功したにすぎない立場にある被告人富雄も当然右の点で無罪といわなければならない。原判決の認定はこの点においてもまた事実誤認の誤りを犯している。以下この点につき少しく敷衍しよう。

(1)  私人が市道を廃道つまり取りつぶそうとする時には代りの道路、付替道路を用意しなければならない。また廃道しよううする道路の沿道区域内の土地所有者の同意書が必要である。これらの点を準備した上で市道であれば市へ道路付替、変更及び敷地の交換申請書を提出する。この申請は(もちろん従前の市道の廃止、新しい市道の認定については市議会の議決および市長の承認が必要であるが)沿道区域の土地所有者の同意書が完備しており、付替道路が従来の道路に比して幅員が狭いなど不当なことのない限りはほとんど必ず許可になるといつてよい(高野証言三分冊一八一三、一八一六、一八二三丁、大塚栄一証言八分冊四五五二、四五五七、四五六四丁)。その結果、市道敷地は(国有である場合は一たん市が国から譲受けた上)申請人に払下げられることとなる。右のように、市道の取りつぶしという問題は一つの明確な法的手続の枠にはまつているのである。従つて、この手続どおりに行なえばほとんど必ず許可が下り、取りつぶすべき市道の敷地は払下げになると同時に、どうしてもこの手続の履践が不可能のまゝ市道の取りつぶしが先行したような場合、市の方では原形復帰を命ずることにより究極的に市道の不法取りつぶしを是正することができるのである。

(2)  ところで、本件の場合、自動車学校の敷地内に桜井本坪線という市道が一本通つていることは市の土木課の方につとに分つていた。これはすでに述べたように、被告人富雄が土木課へ出向き星川係長や清田と現地を見分したことによつてはつきりと確認されたのである。そして星川係長は清田に前記手続を説明して早く申請をするようにいつている。出田も清田の報告を受けてこの市道の存在を確知した(出田証言四分冊二〇三七丁)。そこで出田は早速清田に命じて前記市道付替の手続に着手させ(出田同二〇三七、二〇三八丁、清田四分冊二一一三丁)、清田は直ちに市の土木課へ行つて星川係長等から手続の説明を受け、付替申請の書類をもらつてきた。しかし、手続は専門的であり、色々図面も添付しなければならないので、工事を請負つた伊瀬知に書類の作成、提出を依頼した(清田同二一一三~二一一六丁)。出田はまた被告人富雄に付替申請の書類を伊瀬知に頼んだから議会へ回つたら宜しくお願いすると電話をし、一方清田は未買収の土地が一部あつたのと、沿道区域住民の内一人だけ同意書がとれなかつたのでその解決に奔走した(清田同二一一六~二一一八丁)。その間に桜井本坪線以外にも市道が二本あること(清田同二一一九、二一二〇丁)、また用水路についても許可手続が必要なことがおいおい分つてきて(清田同二一〇九、二一一〇丁)これらについても手続の準備をはじめた。

右のとおりであるから、当時、関係者全員つまり市の土木課も、施主側の出田、清田も埋立工事等を請負つた伊瀬知も、さらに被告人富雄も、市道の付替、市道敷地の払下げ等を前記法的手続に従つて行なうべく相互に努力していたのである。

(3)  一方埋立工事はこの市道の付替申請手続がまだ準備段階であつて正式に行なわれないうちに開始された。しかし、そのことは関係者が前記正規の付替手続をしようと努力していたことの意味を否定し去るものではなく、それとは自ら別個の問題である。清田は一方で埋立てを急がせながら、他方前記同意書等の問題の解決に努力していた。星川係長もまた現地をみて市道が埋立てられているのを認めながら、埋立てを中止しろとはいわず、早く付替え申請を出してくれといつていたのである(星川証言三分冊一八七二、一八七三丁、高野証言三分冊一八〇二、一八〇三、一八一三丁、清田証言四分冊二一三五、二一三六丁)。このことは、自動車学校が市道の付替申請を正式に出さないうちに市道の埋立てをはじめたことを、市の土木課の方では、市道の「侵奪」などとは受取らず、単に手続の未履行ないし遅延という意識で考えていたことを明白に物語つている。出田、清田もまた伊瀬知もそのような意識でいたのである。そしてそれが本件の真相というべきものであつた。周人環視の中での侵奪行為などありえない。関係者の誰もが市道の存在を認識し、そのとりつぶしに所定の法的手続があることを知り、しかもその手続に従うべく努力していたという客観的状況下にあつては、市道のとりつぶしと付替申請等の手続とは一体として観察評価さるべきであり、たまたま付替申請の提出前に市道の埋立を開始した事実があつても、それは市道の取りつぶしを、事前に履践すべき付替申請等の手続に先行させた手続上のそご、違背として把握すべきことであり、またそれで足りるのである(手続は近く必ず履践される予定であるし、どうしてもそれが不可能な場合は、市は原形復帰を命じて違法な事態を是正する余地がある。現にその後市道の付替申請手続はなされ、昭和四一年一二月一〇日正式に市議会の議決を経ている、弁証No. (31)(32)。また同意書がどうしてもとれなかつた部分については昭和四一年七月に市の行政指導により原形復帰が行なわれている(出田証言四分冊二〇五七、二〇五八丁)。それを、市道敷のとりつぶしの事実のみをことさらに切離してとりあげ、これをもつて不動産の「侵奪」とみなそうとすることは、故意に事態の真相を歪めるものといわなければならない。

(4)  以上に述べたところを不法領得の意思との関連から要約してみると、出田も清田も市道の付替申請は隣接住民全員の同意が得られれば容易に許可になるものと考え(出田証言同二〇五三、二〇五四丁)またその同意は必ずとれるものとの想定の下に行動していた(出田証言同二〇五〇、二〇五六丁、清田四分冊二一三一丁)。従つて、その事前に市道の埋立てを始めても、それは付替申請が許可になるまでの一時的、過渡的な事態として意識していたのであり、いずれ許可になれば正規に市道敷地の払下げを受け、万事解決するものと期待すると同時に、他方かりに付替手続がどうしても許可にならない場合に、埋立てた市道敷地を、無条件かつ永久的に自動車学校の所有としてしまおうとする意思などは持つていなかつたのである。市当局も現地住民もつとに市道の存在を意識し、その付替を問題としてきた状況に照らして、出田、清田がそのような虫のよいことが可能であるなどと考えるわけがないであろう。従つて、出田、清田が付替手続がなされていないのを承知で市道敷地を埋立てさせたことは、これを強いていうとしても付替手続が正規に完了するまでの間の一時的な「使用侵奪」であつて、それ故同人等には不法領得の意思はなかつたものと解すべきである(大阪高裁昭四〇、一二、一七、判例時報442号)。

(入場税法違反)

一 原判決には、訴訟手続に法令の違反があつて、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

すなわち、本件については、公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であり、従つて、刑事訴訟法第三三八条第四号に則り、判決で公訴を棄却しなければならない場合に該当するものである。

この点を看過した原判決は当然破棄を免れないものと信ずる。

以下その理由を明らかにする。

(一) 本件に関する告発は、その手続が国税犯則取締法に違反し、右違反は右告発の効力を無効たらしめるものである。

本件入場税の如き間接国税の犯則事件については、違反者に対して、通告処分をなすことが原則とされている。(同法第一四条第一項)

思うに、通告処分なるものは、当該犯則事件を刑事手続によらずして、簡易迅速に行政上の手続をもつて解決しようとしたものであり、間接国税の犯則事件にのみ適用されるものであつて、刑事手続を経ない点からすれば、犯則者に対して与えられた一種の「黄金の掛け橋」であり、恩情的規定でもある。

すなわち、国税局又は税務署の収税官吏が間接国税に関する犯則事件を探知した場合は、その調査の結果を所轄国税局長又は所轄税務署長に報告し、(同法第一三条第一項)右各長において通告処分をなすこととなる。

しかし、同法第一三条但書によれば、例外的に、

1 犯則嫌疑者の居所分明ならざるとき

2 犯則嫌疑者逃走の虞あるとき

3 証憑堙滅の虞あるとき

は、収税官吏においてその長に報告することなく直ちに告発すべし、との旨規定されている。

かかる場合においては、最早通告処分という行政上の手続によつて、ことを解決する見込みが薄く、また、その余裕もなく、一方、それを待つていたのでは、刑事手続となつた際、多大の支障をきたす結果となりかねないからに外ならないものと思われる。

ところで、本件においては、国税局の収税官吏である浜田明男が右但書の2、3に基いて、所轄国税局長に報告することなく直ちに告発したものである。(記録八分冊、四四六五-四四七八、四四七九-四四九九、四三二八-四三八三、第六分冊、三二〇三-三二三七)

しかしながら、被告人は本件告発当時、すでに別件勾留中であつて、逃亡の虞は毛頭考えられなかつた。もつとも、右浜田収税官吏は、保釈された場合を考えた、との旨、原審公廷で供述していたが、保釈になるということは、保釈保証金が逃亡の担保であるとしても、現実には当該裁判官において、被告人に対し逃亡の虞なしとの心証を得たものと判断して差支えないであろう。また同法第一七条第一項によれば、通告処分によつて犯則者に与えられた猶予期間はわずかに二〇日間であり、従つて、この二〇日間における保釈、逃亡が問題である。そして、当時における状況からして、被告人が二〇日間に保釈になる可能性は全く絶無であつた。それ故、被告人の場合はこの点からしても逃亡の虞が全くないことは極めて明白な事実であつたものといわなければならない。

次に証拠堙滅の虞であるが、この点についても、被告人は前記のとおり勾留中であり、接見禁止処分中であつた。しかも本件告発当時においては、すでに熊本県警の精力的な「ねらい打ち」捜査によつて充分な証拠資料が収集され証拠堙滅の虞も全く考えられない状況となつてから、右県警より国税局に対して本件につき通告がなされた、と言うのがことの真相である。そこで、証拠堙滅の虞も全く存しなかつたものである。

ところで、右各但書は通告処分の原則に対する例外をなすものであるからして、厳格に解釈適用されるべきは論をまたないところである。なんとなれば、それは、犯則事件を簡易迅速に行政上の手続によつて解決するという行政目的の外に、犯則者に対して刑事手続によらずして事件を処理する機会を与えるという、言わば恩恵的な理念を包含しているからである。犯則者の立場から見るならば、通告処分は、ある種の権利とみても差支えないであろう。

そうだとするならば、同法第一三条但書の場合に該当しないことが極めて明白な本件において、被告人に対し通告処分に及ばずしてなされた告発は、告発そのものが、同法に違反するものであり、その違反は、告発それ自体の効力を無効たらしめるものである、と信ずる。

(二) 本件に関する公訴提起は、本件の告発が国税犯則取締法に違反して無効である、との前項記載の事実を看過したものであり、従つて、右公訴提起はその手続がその規定に違反して無効である。

すなわち、本件の如く間接国税に関する犯則事件については通告処分との関係から告発が訴訟条件であることについては争いの余地のないところであろう。(刑事裁判資料第九三号一三頁御参照)そして、本件告発は前項記載のとおり国税犯則取締法に違反するものであり、右違反は前項において論じたとおり通告処分の規定及びその理念からして告発それ自体の効力を無効たらしめるものである。

そうだとするならば、本件に関する公訴提起は、結局、訴訟条件たる告発の欠缺を看過したと同一の場合に当り、刑事訴訟法第三三八条第四号に則り、「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき」に該当し、原審裁判所は判決をもつて、公訴棄却の言渡をなすべきであつたものと信ずる。

そこで、原判決はこの点において破棄を免れないものである。

弁護人免出礦の控訴趣意

二 原判示第二の事実(不動産侵奪)について。

1 被告富雄に不動産侵奪の犯意はないこと。

(イ) 同被告は、株式会社上熊本自動車学校の専務取締役出田久又はその部下からその予定敷地内にある市道廃止とこれに代る付替道路の市道認定に関する手続の促進方を懇請され、市の係員に対しその旨要請したのである。

(ロ) 右敷地の埋立工事などを木下建設が請負つているとは言えそれは伊瀬知社長の責任において、西日本建設株式会社に下請させてやらせたもので、一般的な埋立について被告富雄から現場の者らを督励したことはあるが、それは着工から段取りのできる一、二ケ月の間であり、工事の進捗を急がせたに過ぎず、市道の不法埋立を強行させたものではなく、市道の埋立は一〇月以降のことで、被告は全然関知しない。

(ハ) 市の星川係長が現地調査により、初めてその敷地内に市道一本があることを知り、これが埋立に先立ちその廃止と付替道路の認定について指示ないし助言をした結果、右学校の関係者からその手続をすることになつたものである。

(ニ) 同被告は、右手続による市議会の議決と市長の承認を得ないまま、市道を埋立てることの事情を察知していたものではなく、むしろ学校関係者に対し早く右手続を済ませるよう勧告していたもので、出田久においても現地の模様は余り知らず、市道の埋立を強行したものでもない。

2 同被告は市道の存在を具体的に知らず、従つて出田久又は下請人らの市道埋立工事の内容について認識がなかつたこと。

3 本件市道の埋立については、星川係長も前後五、六回現地を訪ねておりながら、一回も注意した形跡もなく、又四一年一二月の定例市議会でその廃止と付替について同意の議決をし、市長の承認を得ている事実に徴し、出田久ら学校関係者も、議会の議決と市長の承認とを予期して事前に埋立てたもので最終的に本件市道を不法に領得する意思はなかつたものと解すべきものである。蓋し市道に代るより価値の大きい新道を付替える意思の許になされたからであり、又不動産の奪取が本来刑罰の対象とされるべき性質のものでないこと、換言すれば不動産保護の要請に基いて新設せられた刑法第二三五条の二の規定は、その必要事態が存続していない本件の場合には妥当しないこと即ち必要事態が存続している限り正当化される条項であること、結局違法性の認識を欠如し犯意なきものと解すべきものと信ずるので、敢てご賢察を賜わりたい。

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